ながれ:アトラ・ラッ・クル伝 // upas cironnup -ゆききつね-

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ゆききつねいのち:アトラ・ラッ・クル伝 > 5. ながれ

ながれ

今日も今日とて、ワシは木の上で村を見守っている。
あの村には、とにかく懲りない少年がいる。
そのやんちゃぶりは、体のいたるところにある傷が物語っている。
まあ、元気なことは悪くないのだけれど。

大地から緑が目を覚ます頃。
みんなを叩き起こすため、少年は山の方へ向かっている。
その力強い行進は、寝ぼすけの植物達もびっくり仰天して飛びあがる。
それでも眠っているものがいる。
この山の主、キムンの熊。
少年は、脇腹をくすぐったり、おでこを叩いたり。
大いびきは止まることをしらず、少年も困っている様子。
大きな体が動き出す。
あいつは、寝相も悪かった。
転がった先には少年がいる。
ワシは咄嗟に飛び出し、少年を突き飛ばす。
かろうじて、2人とも押し花になるのは避けられたようだ。
おかげでワシは頭を木にぶつけ、目の前にヒヨコが3羽ほど回っているが。

歳をとると、暑いのは辛い。
さすがの少年も、あまり得意ではないようだ。
最近では毎日のように、村の近くにある泉で遊んでいる。
少年の声と水の悲鳴が、ワシも少しは涼しい気分になれる。
あまり騒がしいのを好まない泉も、連日の襲撃で諦めきっているようだ。
その暴れっぷりは、水鳥や喉を潤しに来た者たちにも被害が出るほど。
突然、あたりは静寂に包まれる。
泉の方を見ても、少年の姿は見えず。
ただ、まんなかの辺りで泡がぶくぶくしているだけ。
ワシは咄嗟に飛び出し、翼が濡れることも厭わず助けに入る。
かろうじて、少年を泉の深みから引き上げることができた。
おかげでワシはずぶ濡れになり、しばらく日光浴をする羽目になった。

賑やかだった山にも、少しずつ静寂が訪れてくる。
ひとつを除いては、だが。
冬支度の真っ最中だから、あまり暴れて欲しくはないのだが。
そんなことはお構いなしの少年。
落ち葉の海で水泳を始める。
それは、モグラが地面を掘り進んでいるようにも見える。
枯葉モグラは、どんどん進んでいく。
たしか、あの先にあるのは・・・崖だ。
ワシは咄嗟に飛び出し、そのことを告げるため翼で風を起こし葉を吹き飛ばす。
かろうじて、崖の2歩手前で止まることができたようだ。
おかげでワシは疲れ果て、地面に落ちて体を打ちつけてしまうだろう。
まあ、落ち葉のクッションがあるから痛くは無いだろう。

そんなことを考えながら落下しているが、なかなかクッションに落ちない。
・・・・・・そうか。
ワシは、崖に落ちたのか。
やっぱり、歳はとりたくないものだ。

世界が真っ白になる。
ワシは少年のことが気がかりで、魂だけの姿で未だに見守っている。
しかし、どうしたことだろう。
寒さ程度なんともないはずなのに、少年は家の隅でうずくまっている。
ワシがこんな姿になってから、ずっとこのままだ。
話し掛けようにも、魂だけでは声を出すことすらできない。
ただ、見守るしか出来ることはない。

どれだけ経っただろう。
少年は立ちあがり、家の仕事をし始めた。
家の修理、食べ物の調達。
今まで、ずっと嫌ってきたことばかりだ。
遊びの中で身につけた技術をうまく使って、次々とこなしてゆく。
・・・・・・・・。
どうやら、ワシはこっちの世界を発っても良いようだ。

「じっちゃんがいなくなって分かったよ。遊んでばかりじゃいけないって。」



若人たちよ。
変化は恐れるものにあらず。
あたりまえのもの。
そのようじゃ。