例えば、訪れ:最果ての卵 // upas cironnup -ゆききつね-

upas cironnup -ゆききつね-

ショートカットメニュー

ゆききつねいのち最果ての卵 > 2. 訪れ

例えば、訪れ

これから始まるは、たとえばのお話。





その少女は生まれたときから猫と一緒に暮らしていました。
「家族」
血が繋がっていなくても、胸を張ってそう言える。
そんな一家でした。

静かな夜。
外から、みぃみぃと小さな泣き声が聞こえてきます。
窓から覗いてみると、一つのダンボールが街灯に照らされているのが見えます。
少女は、なりふり構わず飛び出していきます。

太陽がいつものように東から顔を出します。
新しい家族の一員と朝食をとります。
少女の箸は、全然進みません。
ずっと名前を考えていたからです。

全ての仕事を放って、名前を一心に考えています。
そうだ。
いい名前を思いつきました。
「希望」という意味のコトバです。

家に帰って玄関を開けると、違和感を感じます。
いつもなら、家族全員が飛びついてくるのに。
どうしたんだろう。
新しい家族と遊んでいるのかなぁ。

その光景を見た少女は、その場で崩れ落ちます。
新しい家族以外の全員が、ぐったりと横たわっています。
皮膚には、酷い発疹のようなものができています。
横たわっている中に、息をしている者はいません。

昨日の夜と同じように、新しい家族はみぃみぃ泣きます。
やがて少女は気がつきます。
病気。
この一家にやってきたのは、病魔だったのです。

空に一番近いところに着きます。
下を見れば、遠くに地面が見えます。
少女は新しい家族を抱きかかえて、そして手を離します。
遠くにある地面に、みぃみぃという泣き声が吸い込まれていきます。

少女は小さな声で言います。
「キミの名前は・・・」
それは「絶望」という意味のコトバです。
遠くで、何かが潰れる音が聞こえてきます。





――――たとえばのお話、おしまい。