今日も今日とて、ワシは木の上で村を見守っている。 あの村には、とにかく懲りない少年がいる。 そのやんちゃぶりは、体のいたるところにある傷が物語っている。 まあ、元気なことは悪くないのだけれど。 大地から緑が目を覚ます頃。 みんなを叩き起こすため、少年は山の方へ向かっている。 その力強い行進は、寝ぼすけの植物達もびっくり仰天して飛びあがる。 それでも眠っているものがいる。 この山の主、キムンの熊。 少年は、脇腹をくすぐったり、おでこを叩いたり。 大いびきは止まることをしらず、少年も困っている様子。 大きな体が動き出す。 あいつは、寝相も悪かった。 転がった先には少年がいる。 ワシは咄嗟に飛び出し、少年を突き飛ばす。 かろうじて、2人とも押し花になるのは避けられたようだ。 おかげでワシは頭を木にぶつけ、目の前にヒヨコが3羽ほど回っているが。 歳をとると、暑いのは辛い。 さすがの少年も、あまり得意ではないようだ。 最近では毎日のように、村の近くにある泉で遊んでいる。 少年の声と水の悲鳴が、ワシも少しは涼しい気分になれる。 あまり騒がしいのを好まない泉も、連日の襲撃で諦めきっているようだ。 その暴れっぷりは、水鳥や喉を潤しに来た者たちにも被害が出るほど。 突然、あたりは静寂に包まれる。 泉の方を見ても、少年の姿は見えず。 ただ、まんなかの辺りで泡がぶくぶくしているだけ。 ワシは咄嗟に飛び出し、翼が濡れることも厭わず助けに入る。 かろうじて、少年を泉の深みから引き上げることができた。 おかげでワシはずぶ濡れになり、しばらく日光浴をする羽目になった。 賑やかだった山にも、少しずつ静寂が訪れてくる。 ひとつを除いては、だが。 冬支度の真っ最中だから、あまり暴れて欲しくはないのだが。 そんなことはお構いなしの少年。 落ち葉の海で水泳を始める。 それは、モグラが地面を掘り進んでいるようにも見える。 枯葉モグラは、どんどん進んでいく。 たしか、あの先にあるのは・・・崖だ。 ワシは咄嗟に飛び出し、そのことを告げるため翼で風を起こし葉を吹き飛ばす。 かろうじて、崖の2歩手前で止まることができたようだ。 おかげでワシは疲れ果て、地面に落ちて体を打ちつけてしまうだろう。 まあ、落ち葉のクッションがあるから痛くは無いだろう。 そんなことを考えながら落下しているが、なかなかクッションに落ちない。 ・・・・・・そうか。 ワシは、崖に落ちたのか。 やっぱり、歳はとりたくないものだ。 世界が真っ白になる。 ワシは少年のことが気がかりで、魂だけの姿で未だに見守っている。 しかし、どうしたことだろう。 寒さ程度なんともないはずなのに、少年は家の隅でうずくまっている。 ワシがこんな姿になってから、ずっとこのままだ。 話し掛けようにも、魂だけでは声を出すことすらできない。 ただ、見守るしか出来ることはない。 どれだけ経っただろう。 少年は立ちあがり、家の仕事をし始めた。 家の修理、食べ物の調達。 今まで、ずっと嫌ってきたことばかりだ。 遊びの中で身につけた技術をうまく使って、次々とこなしてゆく。 ・・・・・・・・。 どうやら、ワシはこっちの世界を発っても良いようだ。 「じっちゃんがいなくなって分かったよ。遊んでばかりじゃいけないって。」 若人たちよ。 変化は恐れるものにあらず。 あたりまえのもの。 そのようじゃ。