ちすじ:アトラ・ラッ・クル伝 // upas cironnup -ゆききつね-

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ゆききつねいのち:アトラ・ラッ・クル伝 > 6. ちすじ

ちすじ

僕は、ひとりぼっちです。
大きくて静かな家の中で、ひっそり暮らしています。
何故、このようになってしまったのか。
何故、というのは難しいから、どうして、と命題を変えます。
結果から言えば、家族は全員死んでしまったのです。
病気や事故など、様々な原因があります。
そして、僕はひとりぼっちになりました。

食料を探しに出かけると、ある家族に出会いました。
大人の男と女。
子供の男と女。
皆、仲良く楽しそうにしています。
その表情は、誰もが一つの単語で表現するでしょう。
「幸福」「幸せ」
僕も、そう表現します。
遠い昔に失ってしまったものです。

突然、家族から声をかけられました。
…どうしたんだい?
とても、羨ましくて見ていた、とは答えられません。
不思議なことに、心を読まれたのでしょうか。
…家で一緒に食事をしないかい?
僕の望みを叶えてくれると言ってくれたのです。
断る理由は、一つもありませんでした。
ありがたく、その申し出を受けました。

「幸福」「幸せ」
そんな言葉でこの気持ちを表すには、全然足りない。
でも、幸せは目の前にあります。
信じられないけど、現実なのです。
…家族にならないかい?
心臓が飛び出ました。
それは、神様がくれた最高の幸福。
涙が止まりませんでした。
僕の体には、この家族の血は流れていません。
それでも、仲間に加えてもらったのです。

時は流れ、大人の男と女は世界を旅立ちました。
さらに時は流れ、僕も世界を旅立つ時がきました。
子供だった男と女は、僕の亡骸を先祖から伝わる墓に仕舞ってくれました。
どうして、と尋ねます。
…家族だもん。あたりまえだよ。
もし体があれば、体中の水を目から出していたことでしょう。




血筋とか、そういうのは関係ないんだよね。
暖かいものが家族っていうんだよ。
冷たいものは…何ていうんだろうね。
あなたのまわりに、暖かいものはありますか?
なければ、探す旅に出ることを勧めるよ。