運命や因縁。 あなたは信じますか? そもそも、それはどんなものだろう。 目に見えず、聞くことも触ることもできない。 存在しているのか自体すら分からない。 ……これから始まる物語は、そんなモノが少しだけ登場します。 暗黒。 空間。 無音。 冷たい空気。 点る一つの光。 ろうそく。 ちりちり。 ゆらめく光。 淡い光に浮かぶ輪郭。 紅い服。 七色の翼。 強大な魔力。 側に、もう一つの輪郭。 ぼろぼろの服。 歳の判らない容貌。 欠片すら残っていない、皮や肉。 暗闇の声。 静寂の声。 ……骸の声。 そして、悪魔の妹の声。 ……例えば。 「例えば?」 ……あなたは、熟れた果実。 「どんな実?」 ……そうね、小さくて、紅く熟した実。 「おいしそう」 ……でもね、少し熟しすぎたみたい。 「どうなるの?」 ……もうすぐ、落ちて、腐って、お終い。 「それは……嫌だなぁ」 ……落ちる瞬間、人間が通りかかりました。どうする? 「んー、食べてもらうために、その人間に向かって落ちるかな」 暗転。 ……例えば。 「例えば?」 ……その人間は、半熟の実が好きなの。 「どういうこと?」 ……だから、完熟の実は燃やして、捨ててしまうの。 「そんな……」 ……食べられることも無く、種を地に蒔くことも無く。ただ、無意味に死ぬの。 「ひどい。せっかく熟れたのに」 ……早くしないと、人間に殺されるわよ。 「ふくしゅう……。そう、復讐」 ……カミサマは、そんなあなたに炎の剣を遣わしました。 「これで……塵になるまで切り裂く」 暗転。 ……例えば。 「例えば?」 ……人間には護衛がいたの。とてもとても強い護衛。 「どんな邪魔が入っても、前に進む」 ……とてもとても高い壁。進めない、登れない。 「絶対に乗り越える」 ……もがけば、もがくほど、人間から遠ざかっていく。 「それでも、諦めない」 ……あなたの剣は、遂には人間に届くことはなかった。 「悔しい……」 ……そして、あなたは4つに、バラバラにされちゃうの。 「人間をバラバラにしたかったのに!」 暗転。 ……例えば。 「例えば?」 ……人間は、あなたを焼いた上、地下深くに埋葬したの。 「お墓の下?」 ……四方八方囲まれた、土の中。 「どんな場所?」 ……暗くて。狭くて。苦しくて。 「怖い……寂しい……」 ……光も、声も、何も通らない。 「地上に向かって、掘り進める」 ……強力な封印が張られている。 「誰か、助けて!」 暗転。 ……例えば。 「例えば?」 ……出口の無い迷路は、迷路と言える? 「出口がなければ……、それは迷路じゃない」 ……だから、求めることを辞めない限り……。 「いつか、見つかる?」 ……それは、とてもとても細い一本の糸。 「道?」 ……あなたと繋がっている糸が、道標となり。 「道が……開けていく」 ……たった一人の、大切な者へと辿り着いた。 「お姉様!」 暗転。 ……例えば。 「例えば?」 ……幾万幾億の星が虹となり、通り過ぎていく。 「これは、何?」 ……永遠の、一つのイメージ。 「とても綺麗……」 ……幾万幾億の生と死を眺めながら、あなたは旅をするの。 「ひとりぼっちで?」 ……あなたの側には、かけがえのない存在。 「そう……よかった」 ……一人ぼっちの永遠は、嫌? 「うん。それは、まさに、地獄」 暗転。 ……例えば。 「例えば?」 ……あの人間に、その地獄が与えられたら。 「今すぐに、この手で」 ……暗くて。 「狭くて」 ……怖くて。 「寂しい」 ……永遠なる地獄を。 「跳ね返り、折れ曲がり、のた打ち回る様を」 ……絆と共に、遥か彼方から。 「未来永劫、眺めつづける」 暗転。 ……例えば。 「例えば?」 ……過去のあなたは、誰? 「どういう意味?」 ……昨日のあなたがいるから、今日のあなたがいる。 「うん」 ……一昨日のあなたがいるから、昨日のあなたがいる。 「何が言いたいの?」 ……過去のあなたがいるから、現在のあなたがいる。 「だから何?」 ……過去のあなたを、一人残らず全員覚えている? 「そんなのは、無理だよ」 ……だから、過去を刻む時計が必要になる。 暗転。 ……例えば。 「例えば?」 ……あなたが、生まれた過去を忘れたら? 「私が今、生きていることは変わらない」 ……本当に、そう思っているの? 「昨日の私がいるから、今日の私がいる……」 ……昨日のあなたがいなかったら、今日のあなたは……。 「一昨日の私がいるから、昨日の私がいる……」 ……一昨日のあなたがいなかったら、昨日のあなたは……。 「過去の私がいるから、現在の私がいる……」 ……過去のあなたがいなかったら、現在のあなたは……。 「そして……」 ……誰もいなくなった。 暗転。 …………。 「あんたは、いったい何なの?」 …………。 「答えて」 ……ある者は、『U.N.オーエン』と呼んだわ。 「知られざる者……?」 ……あなたが世界に広げた波紋。 ……あなたが世界に存在した証。 ……あなたが世界に遺した痕跡。 …………それは。 ……あなたが過去に捨てた物。 ……あなたが過去に忘れた事。 ……あなたが過去に壊した記憶。 …………私は、過去のあなたよ。 暗転。 闇が、空間を支配している。 静寂が、時間を支配している。 きいいいい。 静かに扉が開く音が聞こえる。 隙間から、月明かりが差し込んでくる。 こつ。こつ。こつ。 ゆっくり、ゆっくり。 等間隔で響く。 こつ。こつ。…………。 一日一回訪れる音。 大切な音。 ……フラン、ご飯よ。 こんな場所でも。 お姉様は、私と一緒に食事を摂ってくれる。 「何か……大切なことを忘れている気がするの」 微笑み。 全てを赦す、微笑み。 ……忘れているのなら、きっと大したことじゃないわ。 永遠を共にしている人。 大切な絆で結ばれている人。 「うん、そうだね」 暗転。 ……たとえ、あなたが忘れてしまっても。 ……私がずっと、覚えていてあげるわ。 ……あなたが、消えてしまわないように。