妖夢の四季/妖々四六鳴り往く。 春は夜明けが良い。 まだ日の出ていない時間。 空を飛びながら、ぼーっと東の空を眺める。 少し冷たい風を感じながら。 闇が開けていくのを待つのだ。 日が昇れば、春眠。 陽気に誘われ、眠気に誘われ。 桜の花びらに埋まりながら、暁を忘れる。 寝ているだけでは、剣術も覚えず。 夏は夜が良い。 騒霊の祭囃子が聞こえてくる。 気が付けば、あたりは静寂。 庭に残るは、後の祭り。 この寂しさこそ、先刻訪れた刹那の楽しさが存在した証。 遥か高みに、満天の星空。 今日こそは、星の数だけ素振りを成す。 それは、未だ果たされたことのない目標。 達成してしまえば、この星空も興ざめてしまうのだろうか。 秋は夕方が良い。 何をするにも、心地よい。 虫たちの合唱に合わせて。 赤く染まる西の空を背景に。 剣の舞を演じる。 カラスが鳴くから、帰ろう。 何処に? 人間界か、黄泉の国か。 それとも、帰る場所なんて最初から無いのか。 冬は朝方が良い。 動物も植物も、人間も妖怪も眠る静かな時。 白に染め上げられた道を歩くのだ。 半分幽霊の私は、半分凍えながら。 澄んだ空気を乱さぬよう、鋭い太刀筋で放つ。 何故、雪は白いのだろう。 白は始まりの色。 始まりがあれば、終わりがある。 この幻想郷にも、それは来るだろうか。 そして、春と再会する。 たまには、季節の巡りが逆になったら面白いと思う。 雪が枯れ葉になり、緑に染まり、枝に還り、桜が咲くのだ。 みょんな情景を見ながら、きっとこう思うのだろう。 春夏秋冬の順番だから、趣があるのだ、と。 妖々が住まう此の地より。 季節問わず、四六時中。 腰の剣を鳴らしながら。 夢で見たような、未だ知らぬ何処かへ往こう。