これから始まるは、たとえばのお話。 その少女は生まれたときから猫と一緒に暮らしていました。 「家族」 血が繋がっていなくても、胸を張ってそう言える。 そんな一家でした。 静かな夜。 外から、みぃみぃと小さな泣き声が聞こえてきます。 窓から覗いてみると、一つのダンボールが街灯に照らされているのが見えます。 少女は、なりふり構わず飛び出していきます。 太陽がいつものように東から顔を出します。 新しい家族の一員と朝食をとります。 少女の箸は、全然進みません。 ずっと名前を考えていたからです。 全ての仕事を放って、名前を一心に考えています。 そうだ。 いい名前を思いつきました。 「希望」という意味のコトバです。 家に帰って玄関を開けると、違和感を感じます。 いつもなら、家族全員が飛びついてくるのに。 どうしたんだろう。 新しい家族と遊んでいるのかなぁ。 その光景を見た少女は、その場で崩れ落ちます。 新しい家族以外の全員が、ぐったりと横たわっています。 皮膚には、酷い発疹のようなものができています。 横たわっている中に、息をしている者はいません。 昨日の夜と同じように、新しい家族はみぃみぃ泣きます。 やがて少女は気がつきます。 病気。 この一家にやってきたのは、病魔だったのです。 空に一番近いところに着きます。 下を見れば、遠くに地面が見えます。 少女は新しい家族を抱きかかえて、そして手を離します。 遠くにある地面に、みぃみぃという泣き声が吸い込まれていきます。 少女は小さな声で言います。 「キミの名前は・・・」 それは「絶望」という意味のコトバです。 遠くで、何かが潰れる音が聞こえてきます。 ――――たとえばのお話、おしまい。