これから始まるは、たとえばのお話。 恋する少女がいます。 自分よりも大切な彼のために、今日も尽くします。 でも、辛いと思ったことはありません。 だって、恋しているから。 彼は、こう言います。 「うまい飯が食いたい」 しかし少女は料理ができません。 高級料理店で満腹になった後、伝票を残して逃げ帰りました。 彼は、こう言います。 「かっこいい車が欲しい」 しかし少女にはお金がありません。 近くに停めてある高級車を拝借して、彼に捧げました。 彼は、こう言います。 「快楽が欲しい」 しかし少女は何も知りません。 ただ自分の身をそっと委ね、彼に任せました。 彼は、こう言います。 「あいつがむかつく」 しかし少女は二人を仲良くさせることはできません。 昨日リンゴの皮を剥いたナイフで、「あいつ」の皮膚を剥きました。 彼は、こう言います。 「むしゃくしゃする、人を殺したいくらいに」 しかし少女は彼をなだめることはできません。 長い髪をかきあげ、首を露にしました 彼の手が少女の首に巻きつきます。 細い首は、太い指に締め上げられます。 少女の顔には、恐怖と恍惚の表情が見えます。 やがて、その表情のまま崩れ落ちます。 恋する少女がいました。 自分よりも大切な彼のために、今日も尽くしました。 でも、辛いと思ったことはありませんでした。 だって、今でも恋しているから。 ――――たとえばのお話、おしまい。