これから始まるは、たとえばのお話。 死を間近に迎えた人間の後ろに。 「それ」は付きまとうのです。 「・・・・君は誰?」 少年が尋ねます。 「オレは死神。おまえが死んだときに、魂をいただくためにここにいる。」 少年は、驚きます。 「僕はまだ死なない。死ねない。」 玄関を開けます。 外は晴天、日本晴れ。 青空をのんびり雲が泳いでいるのが見えます。 背中をのんびり死神が泳いでいるのが見えます。 少年は、まだ生きています。 街にたどり着きます。 人の波の中に入っていきます。 元気な人。くたびれた人。頑張ってる人。疲れている人。 いろんな人がいます。 少年は、まだ生きています。 威勢の良い声が聞こえてきます。 いろんなところを行き来する少年。 お昼の仕事場は大忙しです。 死神は、来るべき時をじっと待っています。 少年は、まだ生きています。 店の中に入ります。 ショウケースの中は、色とりどり。 少年は、そのひとつを指差します。 必要以上に飾らない首飾り。 少年は、まだ生きています。 噴水が見えてきます。 少年は走って、その下へ行きます。 一人の少女が微笑みます。 二人は手をつないで、街の奥へ消えます。 少年は、まだ生きています。 たくさんの星が輝いています。 大空に輝く星座と、地上を彩るネオンサイン。 平和な時間。穏やかな風。暖かい光。 それらが二人を包み込みます。 少年は、まだ生きています。 「・・・なんでおまえは死なない?」 すでに死ぬ予定の時間を大きく過ぎていました。 「そんなこと言われても・・・」 少年が答えます。 「勝手に人の運命を決められても困るよ。」 「あなたは死神さんなの?」 少女が尋ねます。 死神は、その象徴である鎌を見せます。 率直に答えます。 「でも、姿はまるで天使さんみたい。」 素朴な首飾りをつけた少女。 まだ生きている少年。 死神の鎌を持った、天使のような姿の死神。 やがて街はしばしの眠りにつこうとします。 彼らも、帰るべき場所へ向かいます。 人の気配がない道。 小さな街灯と月の光が照らしています。 ごみ箱から何かがはみ出しています。 一度も使われたことのない、豪華な鎌です。 重みで、ごみ箱が音を立てて倒れます。 ――――たとえばのお話、おしまい。