例えば、死神:最果ての卵 // upas cironnup -ゆききつね-

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ゆききつねいのち最果ての卵 > 4. 死神

例えば、死神

これから始まるは、たとえばのお話。





死を間近に迎えた人間の後ろに。
「それ」は付きまとうのです。

「・・・・君は誰?」
少年が尋ねます。
「オレは死神。おまえが死んだときに、魂をいただくためにここにいる。」
少年は、驚きます。
「僕はまだ死なない。死ねない。」

玄関を開けます。
外は晴天、日本晴れ。
青空をのんびり雲が泳いでいるのが見えます。
背中をのんびり死神が泳いでいるのが見えます。
少年は、まだ生きています。

街にたどり着きます。
人の波の中に入っていきます。
元気な人。くたびれた人。頑張ってる人。疲れている人。
いろんな人がいます。
少年は、まだ生きています。

威勢の良い声が聞こえてきます。
いろんなところを行き来する少年。
お昼の仕事場は大忙しです。
死神は、来るべき時をじっと待っています。
少年は、まだ生きています。

店の中に入ります。
ショウケースの中は、色とりどり。
少年は、そのひとつを指差します。
必要以上に飾らない首飾り。
少年は、まだ生きています。

噴水が見えてきます。
少年は走って、その下へ行きます。
一人の少女が微笑みます。
二人は手をつないで、街の奥へ消えます。
少年は、まだ生きています。

たくさんの星が輝いています。
大空に輝く星座と、地上を彩るネオンサイン。
平和な時間。穏やかな風。暖かい光。
それらが二人を包み込みます。
少年は、まだ生きています。


「・・・なんでおまえは死なない?」
すでに死ぬ予定の時間を大きく過ぎていました。
「そんなこと言われても・・・」
少年が答えます。
「勝手に人の運命を決められても困るよ。」

「あなたは死神さんなの?」
少女が尋ねます。
死神は、その象徴である鎌を見せます。
率直に答えます。
「でも、姿はまるで天使さんみたい。」

素朴な首飾りをつけた少女。
まだ生きている少年。
死神の鎌を持った、天使のような姿の死神。
やがて街はしばしの眠りにつこうとします。
彼らも、帰るべき場所へ向かいます。

人の気配がない道。
小さな街灯と月の光が照らしています。
ごみ箱から何かがはみ出しています。
一度も使われたことのない、豪華な鎌です。
重みで、ごみ箱が音を立てて倒れます。





――――たとえばのお話、おしまい。