例えば、呪い:最果ての卵 // upas cironnup -ゆききつね-

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ゆききつねいのち最果ての卵 > 6. 呪い

例えば、呪い

これから始まるは、たとえばのお話。





彼は嘘つきでした。
幾度も人を欺きました。
でも、それは過去の彼。

彼は盗人でした。
幾度も盗みをしました。
でも、それは過去の彼。

彼は乱暴者でした。
幾度も言葉で人を傷つけました。
でも、それは過去の彼。

彼は殺人鬼でした。
幾度も命を奪いました。
でも、それは過去の彼。


彼は、立派な青年です。
過去は、すべて捨て去りました。
それが、今の彼。


ある日、彼は昔の自分の夢を見ます。
嘘つきだった自分。
盗人だった自分。
乱暴者だった自分。
殺人鬼だった自分。

過去を捨てた彼には、それらが何であるか分かりません。

「向こうへ行けば、いいものが見られる」
行ってみても、何もありません。
だまされたのです。

「おっと、ごめんよ」
すれ違いの人と肩がぶつかります。
財布がなくなっていました。

「この、くそが」
出会い頭に、罵詈雑言。
心に傷を負いました。

「悪いが死んでもらう…」
突然、刺されました。
殺人鬼に殺されました。

全ては、夢です。


同じ夢を見ます。
知らない人間に、ひどい目にあわされる毎日。
「どうして、こんなことに?」

過去の彼は、そろって言います。
「自分の心に聞いてみな」

悪夢は繰り返します。
彼の精神が崩壊し、肉体が腐敗するまで。





――――たとえばのお話、おしまい。