これから始まるは、たとえばのお話。 ここに、一匹の獣がいます。 四本の足。 ごつごつした皮膚。 そして、鋭い眼。 全てを石に変えてしまう視線。 獣の目の前に兎が現れました。 現れた瞬間、それは兎で無くなってしまいました。 冷たい兎の彫刻になってしまいました。 視線を合わせただけで、こうなってしまうのです。 獣は、こんな力は要らないと思っています。 たまには誰かとゆっくり話がしたいと思う獣。 今まで一度も叶ったことがない願い。 獣が通った道には、石の彫刻が並んでいます。 つまりは。 そういうことです。 獣の前に猟師の一団が現れます。 彼らは石の能力から身を守るために、機械で獣を見ます。 ……悪く思うな。 短い発砲音。 獣は息絶えました。 獣の体液は、難病を治す力があると言われています。 獣の皮膚は、頑丈な鎧になると言われています。 獣の内臓は、とても長寿の秘薬と言われています。 獣は思います。 石の彫刻より、こっちの方が価値がある…と。 ――――たとえばのお話、おしまい。