これから始まるは、たとえばのお話。 大陸から遥か離れた、小さな孤島。 そこに、悲しみの少年が一人で暮らしています。 少年は、世界中の悲しみを感じることができます。 共感して、少しでも悲しみを減らしてあげようと、涙を流すのです。 大きな音が聞こえました。 居眠り運転の車が、子供達の中へ突っ込んでいったのです。 体から血を流しながら、悲しみの少年は涙します。 叫び声が聞こえてきました。 小さないざこざで、愛し合った二人が別れてしまったのです。 心を軋ませながら、悲しみの少年は涙します。 嗚咽が聞こえてきました。 たくさんの人に親しまれた人間が、病気で急死してしまったのです。 体中の水分を使って、悲しみの少年は涙します。 強い風を感じました。 全てに絶望し、高いところから落下しているのです。 闇の中へ沈みながら、悲しみの少年は涙します。 誰かの鳴き声が聞こえてきました。 世界の悲しみを感じてしまって、ある少年は涙が止まらなくなってしまったのです。 何処かの誰かと一緒に、悲しみの少年は涙します。 ――――たとえばのお話、おしまい。