これから始まるは、たとえばのお話。 道端に絵描きがいました。 ぼろぼろの服、ぼさぼさの髪、使い古された道具。 道行く人は、誰も見向きしませんでした。 絵描きは、紙幣の絵を描きました。 額面は、その国で使われているお金の、最小の単位でした。 それと同じ値段で売ろうとしましたが、売れませんでした。 別のあるところ。 男は破産しました。 全ての努力は、瓦礫と化しました。 何もかもを失い、道を彷徨っていました。 道の隅に絵描きを見つけました。 紙幣のような絵。 それに、何故か惹かれていきます。 ポケットに入っていた小銭で、絵を買いました。 もう一度だけ、頑張ってみよう。 男は立ち上がります。 少しの時が流れます。 男は、なんとか生活を取り戻しました。 そんなある日、部屋に飾ってあった紙幣の絵を見た友人は言いました。 これは、ものすごい価値があるのではないか。 鑑定してみました。 絵の額面からは想像できないほどの値がつきました。 男は言います。 これは、この絵に描かれた値段で買ったものだ。 売るならば、その値段で売る。 しかし、私は売るつもりは無い。気に入っているからだ。 ――――たとえばのお話、おしまい。