例えば、大往生:最果ての卵 // upas cironnup -ゆききつね-

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ゆききつねいのち最果ての卵 > 28. 大往生

例えば、大往生

これから始まるは、たとえばのお話。





おじいさんは、小鳥の歌声と窓から入ってくる光を感じました。
ああ、また今日が始まるのか。
そんなことを思いながら、ベッドから起き上がります。

健康の秘訣。
このあたりに生えている薬草をすりつぶした飲み物。
朝食と一緒に、一日足りとも欠かすことなく飲んできました。

朝食の準備が整い、椅子に座ったときでした。
おじいさんや家の中にあるもの全てが揺れ始めました。
あいつは大丈夫だろうか。

地震が収まると、すぐにおじいさんは家の外に飛び出しました。
1本の大きな木が、いつものように立っています。
花びらが散り始めた、桜の木。

少し散っているけど、まだまだ見ごろです。
おじいさんは、ほっとしました。
もう少し、桜を見ていたかったからです。

散らかった部屋を片付けます。
朝食は台無しになったけれど、桜が無事ならそれでいい。
ずっと一緒に育ってきた、大切な家族。

柔らかい風が吹いています。
桜を背に、おじいさんは本を読んでいます。
若者が宝を求めて冒険に出るという話です。

急に、腕に力が入らなくなってしまいました。
目の前が真っ暗です。
そのまま、おじいさんは二度と動かなくなりました。

崩れ落ちるとき、気がつきました。
そういえば、薬草を飲んでいなかった。
ちょっとした失敗でした。

でも、これでいいと思いました。
死んでも、この桜と一緒にいられるからです。
少しだけ、花びらが赤くなったような気がしました。





――――たとえばのお話、おしまい。