例えば、幸福:最果ての卵 // upas cironnup -ゆききつね-

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ゆききつねいのち最果ての卵 > 29. 幸福

例えば、幸福

これから始まるは、たとえばのお話。





あるところに、一人の少女がいました。
食べるものも着るものも、何不自由ない生活を送っていました。

少女は暖かい家族につつまれ、暖かい時間を過ごしていました。

少女は楽しい友達につつまれ、柔らかい時間を過ごしていました。

少女は素敵な恋人につつまれ、夢のような時間を過ごしていました。

少女は自分の子供達につつまれ、賑やかな時間を過ごしていました。


少女が住んでいる地に戦乱の波が押し寄せます。
家族が。
友達が。
恋人が。
子供達が。
次々と、目の前で息絶えていきます。

少女は奇跡的に助かりました。
でも、ばらばらに砕けた心は、幸せだった頃に帰ってしまいました。
何もなかったのだ。幸福な時間を今日も過ごしているのだ、と。


あるところに、一人の少女がいます。
食べるものも着るものも、何不自由ない生活を送っています。

少女は家族と呼んでいる何かにつつまれ、暖かい時間を過ごしています。

少女は友達と呼んでいる何かにつつまれ、柔らかい時間を過ごしています。

少女は恋人と呼んでいる何かにつつまれ、夢のような時間を過ごしています。

少女は子供達と呼んでいる何かにつつまれ、賑やかな時間を過ごしています。


少女が住んでいる地の近くで戦争が起こっているといいます。





――――たとえばのお話、おしまい。