これから始まるは、たとえばのお話。 一人の少女が、満月を眺めています。 ふと、思いました。 兎が餅つきしている裏では、何が起きているのだろう。 少女は、長い長い旅路を歩み始めます。 まがりくねった道。急な坂道。 それでも、とにかく歩きつづけました。 そして、月の裏側に到達しました。 生と死。永遠と有限。人間とニンゲン。神話と歴史。透明な白と、不透明な黒。 今まで見た事も無いものがたくさんありました。 家に帰った少女は、このことを両親に話しました。 たくさんたくさん話しました。 でも、なかなか分かってくれません。 友達に話しました。 近所の人に話しました。 やっぱり、分かってくれませんでした。 その夜、少女は不思議な夢を見ました。 月の兎が、手招きをしています。 これで、私は月の住民になれる! もう一つの視点。 娘が突然、旅に出るといって、出て行ってしまいました。 しばらく経って、帰ってきます。 しかし、かつての娘とは別人のようでした。 訳のわからない話をします。 いや、訳は分かる。 けれど、それは禁忌として法やモラルと呼ばれる「何か」によって規制されています。 どうやら娘は、その話をいろいろなところでしているようです。 たくさんの苦情が来ました。 あんな危険な子供、処分してしまえ。と。 満月の夜、父親は眠っている娘の心臓にめがけて。 銀色の刃を突き刺しました。 何故か、安らかな寝顔でした。 ――――たとえばのお話、おしまい。