これから始まるは、たとえばのお話。 世界が変わっていくのが、どうしても許せませんでした。 一歩ずつ、汗と努力を積み重ねて、やがて大きな塔が完成しました。 遠くまで見渡せる、とても立派なものでした。 少女は、塔を壊しました。 街の見た目が変わってしまったことが、許せませんでした。 かつては精鋭の戦士だった彼も、時間の流れにだけは逆らえませんでした。 一線を退き、後輩の育成に尽力しました。 少女は、戦士を殺しました。 最前線で戦えなくなった戦士を、許せませんでした。 どうして世界は、こうも変化しつづけてしまうのか。 少女はただ、変わらない毎日さえあれば、それでいいのです。 そう、時間が流れるから、世界は変わってしまう。 もっと簡単に、変化から逃れる方法が見つかりました。 丘の上の草原に、動かなくなった少女が静かに横たわっています。 時の流れから抜け出せば、もう変わることはない、はず。 それでも、世界は残酷に変わり続けます。 時間が止まったはず少女にも、変化は訪れます。 少女の着ている服が、どんどん汚れていきます。 すぐ横に咲いていた花が、種を飛ばし、やがて枯れてしまいました。 覚えていたはずだったことが、どんどん記憶の中から消えていきます。 少女の体は、もうそれが誰なのか分からないくらいに腐っていました。 何もかもが変わっていくのが、どうしても許せません。 ――――たとえばのお話、おしまい。